第3章 収集家は多くはない

SP音盤コレクターへの道
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「収集家が少ない」ウェブオークションで人数を探る
私は過去広告関係の仕事をしていましたから、映像関係者やデザイナー、コピーライターカメラマンなど業界の数多くの人と交流してきました。
また、取材で大手から中小零細企業に至るまで、経営者や社員にインタビューなどを行ってきましたが、趣味でSP盤を収集しているという人には、残念ながら一人も出遭ったことがありません。
私のサラリーマン時代は、趣味と言えばゴルフという時代でしたし、一人だけジャズレコード集めが趣味と公言している人がいましたが、なんかそれだけで変わり者扱いされた時代でもありました。
その方が台風の翌日出社しないと言うことで同僚がアパートを見に行くと、床上浸水の自宅でレコードを抱えて右往左往している本人に出会ったということで、大笑いのネタにされていました。
それでもたまに職場の友人やバイトの子などに、趣味でSP盤を集めようと思っていると言ったときには、情報出版やIT関係の仕事をしているのに、なんとアナクロな趣味と、笑われたことの方が多いと思います。

あくまでも直感ですが今でもSP盤収集家というのは、日本全国で数千人という規模まではいかないのではないでしょうか。たぶん多くの人には、コレクターの風貌なども想像できないかもしれません。別に普段着に着物愛用しているわけでもありませんし、最新家電も何もない生活を過ごしていることもありません。
ちなみに私も、外見からは蓄音機やSP盤のコレクターなどとはわかりません。
むしろ普通のオッサンです。
町中で出会っても、わかるはずがありません。もしもあなたが先輩コレクターに出会いたければ、ご自身の趣味をできる限りたくさんの人に喧伝することです。
そうすると必ず「変わった奴」という印象が相手には植え付けられます。
その印象はなかなか珍しいため、別のところで同様の人の噂話などを聞かれたときに、「ああそういえば、私の知人にも、そんな奴いますよ」ってなります。
そうでもしない限り、なかなか同好の士には出会えません。たぶん私の場合、自宅から5km圏内に同好の士は1名いるだけでしょう。(推測ではありますが)ただし、私自身噂を聞いているだけで、まだその方のところへ出向いたことはありません。私はいたって小心者ですから、大先輩などには怖くて近寄れないのです。

おそらくSP盤のコレクターというのは、学識豊かでちょっと高齢ないかめしい人物なのではないかと想像しております。

で、話がそれてしまいましたが同好者の数を確認するのに一番良い方法は、ネットオークションオークションサイトでの人気商品に応募される数を見るのが一つの目安になると思います。これはと思う商品に出遭うことがありますが、それでも応札者は50人前後です。
ただ、ネットオークションのやり方をご存じない、70代80代のコレクターが多ければ、良いとは思っていますが、最近は時々そんな方の遺品も少し出回っており、寂しくなっています。で、普段のSP盤オークションはというと、単品レコードの場合絶対的に多いのが、応札者0人というもの。
だからと言って、応札者の少なさが実際に収集家が少ない証拠になるのかといえば、そうとも言えない事情があると思います。というのもSP盤を実生活で聴いたことのある収集家と、そうでない収集家がいるということが考えられます。
私は昭和26年生まれです。小学校に入学したのは昭和32年とか33年だったでしょうか。このころは、小学校の校内放送で、お掃除の時間には「クシコフの郵便馬車」なんて曲が掛けられていましたが、これはSP盤の蓄音機を放送室のマイクロフォンの前にもっていって、レコードをかけていた様子です。
運動会のダンスや盆踊りにも手回し蓄音機や、高級な電気蓄音機が活躍していたのを覚えています。ですから、蓄音機の音になじみにある世代ということになると、70代以上の方になります。そんな方がネットオークションを頻繁に利用されるかどうかというと、それほど積極的に利用されないのではないかと、私は思っています。
そのような方々は、ある程度高くつくかもしれませんが、現在でもSP盤を販売されている専門店に通われているのではないかと思われます。
どのような趣味でも深くのめりこむと、それなりのお小遣いがないとむつかしいとは思います。月に1枚希少版を購入しても毎日聞くということは多分ないでしょうから、この手のお店を利用されている方は、長年のコレクターさんかお金持ちで、品質の良いレコードをお持ちなのかもしれません。
そのような方にとって、webオークションで、出品されるレコードなどというのは、結構珍盤であったとしても、SP盤自体が工業製品で大量に出回っていたため、長い収集人生の中で、すでに入手されているものも多いと思います。
私のような集め方では、大ヒットした歌謡曲などは何枚も手持ちにあります。こんな場合、コレクションとしては一番条件の良いものを手許に残して、普段聴くために予備を一枚、あとは不要になります。
ですから、持っているレコードが出品されても、見向きはしません。
珍盤や希少版に応札されるのは、それらをお持ちではない、比較的コレクター歴の短い方なのかもしれません。

また歌謡曲に関して言えば、webオークションに出品があっても、さほど多くの応札者は出てこられません。これは、歌謡曲という音楽に感じるのはうまいか下手かという問題ではなく、一番大きいのは郷愁ではないかと、私は思っています。
これは、その時代を実際に生きて、生活の中でその歌を聞かれた世代と、後世になって聞かれた方とでは大きく違うと思っているのです。
私は戦後生まれですから、戦前の歌謡曲や軍歌は成長過程で結構聴いている方だと思います。しかし、真珠湾攻撃の実況盤(とはいっても作り物で擬音ドラマ風)や軍艦行進曲を聴いても、当時の人々が快哉を叫び聴いたという風景は、わかりません。
しかし、カザルスの「白鳥」を聴くと、幼稚園のお昼寝の時間に鳴っていたことを思い出し、感慨深いものがやはりあるのです。
そのような感慨を求めて、一時期懐メロ番組がテレビやラジオでも放送されていたものですが、当時の懐メロに出演されていた方も鬼界に入られ、今の懐メロというと、1968年頃から75年頃に流行した演歌やフォークソングが全盛です。

現在団塊の世代が社会の中に占める比率は大きく、聴かれる懐メロは東海林太郎でも淡谷のり子でも、田端義夫でもなく、フォーククルセダーズであり、西郷輝彦であり、天地真理さんなのです。
つまり今の人たちから言うと、戦中戦後の歌謡曲はもはや先代のものではく、先々代のもの、消えゆく世代の音楽で、今の世代の人たちにつながれてはいないということなのです。
また、先々代の人たちが、いまさら生産されていない蓄音機を探し求めて購入し、さらにSP盤を気軽に購入できるような時代ではないために、ますます1940年代の曲は、失われていくのです。
できればそれらの曲を発掘し、カバーででも歌っていただけると、もう少し歌謡曲の寿命も延びるのかなと期待はしているのですが。
歌謡曲のコレクターが少ないのは、こんな理由じゃないかと私は考えているのです。

さらに伝統芸能となれば、推して知るべしです。小唄、端唄、新内、都都逸といえば、粋筋の方々の世界のものであり、割と花柳界で遊ぶ旦那衆の趣味としては存在しており、それを聴きたいという方々のために、昭和初期には、全国各地の芸者衆がレコードを吹き込んだものです。
それが義太夫にも言えまして、落語に出てくる長屋のご隠居や大家さんのご趣味が義太夫をうなること(このような表現がふさわしいのかどうかわかりませんけど)でしたし、常磐津、長唄などは浄瑠璃や、歌舞伎でもおなじみで、しかも江戸時代以降大衆娯楽でしたから、今でいえばミュージカルみたいな受け止め方だったのではないでしょうか。
それだけに、人気の演目のレコードも数多く存在し、往時の人気がわかります。
それらの演者は今聴いても素晴らしいと思いますし、現在の義太夫語りの方にも、参考になると思います。ただ、残念なのが歌舞伎や文楽、あるいは浄瑠璃などは、現在では大衆演芸ではなくなっており、誰もが普通に見聞き出る状態にはなっていないということ。
芸者という職業に携わる女性も少なくなっており、そのような女性の踊りや唄を聴かせていただく機会がほとんどなくなったことで、消えゆく世界になりつつあります。
大衆芸能が大衆文化音楽になり、さらには古典芸術になりつつあるため、それらのレコードを集める人はほんの一握りなのだと思います。
もちろんネットオークションにも単品で出ることはほとんどなく、素性を隠した「まとめて何枚レコード」で出品されています。

勇者ノリク
勇者ノリク

昭和の初期に大流行した浪花節も、まとめて何枚ではたくさん入ってきます。実は浪花節こそが、昭和初期の国民娯楽そのものだったと行ってもいいのですけどね。
それと、昔の吹き込みは、器楽よりも人の声の方に適していたという文献もあります。

古典芸能を愉しむという流行が起きれば、再評価されることになるかと思いますが、そのような時代が到来するかどうかは神のみぞ知るという状況のようです。
義太夫、芸者のレコード盤

一方実際にSP盤の活躍シーンを体験されていない若いコレクターもいらっしゃいますが、この方にとっては、webはお得意でしょうし、比較的お金に融通の利く世代かもしれません。
ところが、この方々にとって、大東亜戦争や満州国、あるはフルトベングラーやガーシュインなんて言っても、よほどの方でないとご存じないかもしれません。
若い方は多くの場合、例えばジャズでいろいろなアーティストの曲を聴き、そのアーティストの足跡を辿るうちにSP盤の世界に迷い込むなどというのが一般的ではないでしょうか。
私もジャズは好きですが、もう少し複雑で、中学生のころブラスバンドに入っていたため、マーチなどを演奏しており、さらに何年か前に公開されたブラスバンドの映画で、「スイング・スイング・スイング」を聴いて、昔家族で聴いたことがあるグレンミラーを思い出し、ベニーグッドマンを思い出し、、、、、、という風に、遡っていったのです。もちろん他の影響も多々あるのですが。
そういった意味では、クラシックや、ジャズの愛好家としてSP盤の世界に入られる方が多くなっているかもしれません。
だから、ジャズやクラシックの単品出品にも、数十人の応札者が集まるのかもしれないと私は思っています。
ジャズ、クラシックレコード盤

第4章 玉がそろわない
第4章 玉がそろわない spレコード盤の現状を考察します。なんでファンが増えないのか、なんで?という原因の一つに、やはり玉がすくないということが有野ですが、自分なりの考えを書き連ねてみました。 全くの思い込みの世界です。

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