第5章 すべてに精通はできない

SP音盤コレクターへの道
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「音楽知識に乏しい」詳しくなるには時間がかかるし、分野が広すぎる
人のことを言えた義理ではないですが、私も大量に買ったSP盤を眺めて、呆然としました。例えば日本版(日本国内でプレスされたレコード)には、琵琶、尺八、琴、など器楽もあれば、新内、長唄、都都逸、義太夫、謡曲、など今でいう古典芸能があり、講談、里謡、新民謡、流行歌、新歌謡、軍歌、声楽、タンゴ、ハワイアン、ルンバ、ブルース、フォックストロットなどなど、数多くの分野があるのです。これ以外にも映画説明、演説、説教、実況録音、和讃、讃美歌、落語、漫才、浪曲、浪花節、音頭、踊り用の長唄録音などが入り混じっているのです。私が生まれたのは1951年ですが、買いあさったレコードの7割程度は、私自身が生まれる前のもので、どのような奏者が、あるいは歌い手さんが著名なのかどうかも皆目わかりませんでした。

実際のところ、これらの音楽すべての分野に明るい人など、おられないと思いますので、それらを取りまとめるだけでも大変な作業だし、クズみたいなSP盤に価値を見出せるよう磨いていくためには、販売する側にそれなりの知識がないと、むつかしいと思います。
例えば日本の声楽界でも著名な、藤原義江さんという声楽家がいるのですが、私もかなり持っていますが、整理しようとすると、レコードを発行年順に整理し、さらに生年月日や死亡日、個人年表を調べ上げ、一番脂の乗っている時期はいつかとか、このレコード発売の経緯はとか考え始めると、とてもきりがないのです。
女性声楽家のレコードもありますが、著名人はウィキペディアに記載されていますから、少しは調査しやすいのですが、伝統芸能の芸者さんなどは、わからない方も多いのです。
で、調べ尽くしてうんちくが豊富になったからといって、コレクターがいなければ、売れるわけありません。

結果的に、販売する側にとっては、そんなことはさておいて、今ある在庫が仕入れよりも高く売れればいいわけですから、詳しくは語りませんし語る必要もありません。それは購入する側の思いやこだわりであるわけですから。
そうなると、押しなべて著名な、戦後生まれの私たちでも知っていそうなレコードが高くなります。たとえて言うと美空ひばり、淡谷のり子、石原裕次郎みたいなビッグネームは、高くなります。また比較的珍しい、戦記物や実況録音なども高くなります。というのも、デビュー当時にはSP盤主流で、途中でEPやLP盤に代替わりしたため、1950年当時にレコード吹込みしていて、10年間程度でSP盤の寿命は尽きたからです。毎月のように新曲を出せるビッグネームならレコードの枚数も多いのですが、多くの歌手がおりそれらの歌手すべてがレコードを出せたわけではありません。

ちなみに当時大衆娯楽は映画に移行しており、人気スターの映画は毎月のように公開されていました。さらにそれら映画の主題歌が流行歌として、レコード盤にプレスされ市中に出回っていました。例えば美空ひばりさんは戦後直後から1959年ころまでの10年で映画出演は100本ほどあります。たいていが主役か準主役で挿入歌を歌っていますから、レコード盤のAB面をひばりさんが歌っていたとしたら、おそらく50枚程度のレコードがあるのかもしれません。これも詳しく調べるすべがないのですが、私でも20枚近く持っていますから、かなりの数が出回ったとは思います。
一方映画自体が大流行しても、オリジナル曲のカバー出版自体が少ない時代でもあり、流行映画の主役が吹き込んだものに、その後ヒットに恵まれなかった役者さんの、今でいう一発屋さんも生まれたようです。時折、私自身初めて聞くような歌手に出会うこともあります。
このような戦後の映画や映画主題歌が山ほど出る時代の知識は、すべてご存知の方は少ないと思いますし、現在ではご高齢のための、ネットや出版物で情報を得にくいということで、より専門知識が伝わりにくいのではないでしょうか。
またそのような知識をふんだんにお持ちの方であっても、そんな知識を求めている人も少ないのかもしれません。

一方クラシックに関しては、骨とう品の事業者の中にも、音楽の歴史評論家的業者さんが何人もいます。そのような方が選んで市に出るレコードは、さすがにそのレコードの来歴的蘊蓄も語れるし、状態の良いものが多いのです。
当然クラシックは関連書籍や文献も多いので、収集家も多いとは思います。
実際のところ、新橋や難波の無名の芸者さんが歌って(レコード出すくらいだから当時の花柳界では恐らく、ピカイチのトップスターだったのでしょうけど)、合いの手を幇間や一党(連中)が入れたレコードを集めている人よりも多いと私は思いますから。
結局、クラシックや著名な歌手以外のレコードは、販売する側の業者さんが、よくわからないままに一箱にまとめて売ってしまうんです。中古レコードでも80年以上昔のレコードとなると、もはや品質とか演奏とか、録音とかの出来不出来で売れるわけでなく、歴史的価値とか、収集家の評価になるわけですから、さすがに何もわからないという状況では、高くも売れません。
結局は重くて割れやすくて、中身も聞いていないからわからないという訳で、嫌われているのかとも思います。

とは言え、ネットオークションサイトの普及で、休眠していたレコードでも、出てくるようになって、それはそれで本当にありがたく思っているのです。保存倉庫に埋もれたままになっていたレコードは管理状態も悪く、整理分類などされていません。それだけに写真は掲載されていても、ほとんど博打のような買い物になりますね。
山のようなレコードの列

当方のスタンスは、どのような音楽でも一応は聴いてみるという感じなのですが、周囲に音楽評論家や研究家がいないため、面白いなと思ったら、webで検索することになります。
しかしウィキペディアも元はといえば、それぞれ特定分野に精通している方が記述されているわけで、情報のないものもあります。
そんな音楽について調べてみるのも、趣味としては面白いのですが、これからSP盤を聞いてみようとか収集してみようとか言う方は、まずは自分自身のお気に入りを作られてから、その分野に埋没されるのがいいかと思います。
私のように、闇雲にいろいろな音盤を購入してしまうと(安売りの一箱いくらに手を出しすぎると)収拾がつかなくなってしまいますからね。
個人的に思うのは、SP盤の収集などは、できれば若い方にやってもらいたいです。音楽関係の調べ物って、思いの外時間がかかるんですよ。
今は自宅でネットを利用して大概のことは調べられますが、ほんの10年ほど前までは、レコードに関するわずかな書籍を購入したり、図書館でそれらしき資料を探し出したり、結構大変だったのです。

勇者ノリク
勇者ノリク

実は今でも大変なのですよ。SP盤の歴史を調べるのは。

 

第6章 そうそう高くは売れない
SP盤に関するエッセイです。今回はSP盤あるあるみたいな話になりそうです。売れないSP盤についてのお話を少しさせて頂きます。 だいたいにおいて高く売れるSP盤というのはクラシックやジャズ盤なんですが、売れないレコードにも味があるモノなんです。

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